冷たい舌

 

 居間に入ると、公人がひとりお茶を飲んでいた。

「おお、透子。掃除は済んだか?
 和尚と忠尚はどうした」

「帰った」

 ふーっと透子はソファに腰を下ろす。

「なんじゃ、元気ないのう」

「別に?
 疲れただけ」

 透子は足を組んで、ぐたっとひじ掛けに身体を預ける。

「透子。
 潤子さんは、まだなんとか見合いを進めようとしとるようじゃが。気にすることはないぞ。

 お前は、この八坂に名高い龍神の巫女なんじゃからな」

 反対側のひじ掛けに搦めた足をのっけると、透子はのけ反るようにして、テーブルの前に座る公人を見た。

「八坂に名高いっつっても、今の私は淵に参拝したり、舞を舞ったりするくらいしか能がないからねぇ。

 お母さんに言わせりゃ、ただの穀潰しよ」

 透子は小さく息をついてから言った。

「―あ、騙されるとこだった。
 そういや、掃除させたの、お祖父ちゃんじゃない」

「いやあ。
 ああでも言わんと潤子さんが煩いじゃろうが」

 嘘だ……。
 単に、自分が楽したかったんだ。

 疑わしい目で祖父を見たとき電話が鳴った。

 忠尚だった。