冷たい舌

「……人を、鈍いみたいに」

 女はそれだけ漏らし、ちょっと不機嫌そうな顔をした。

 その顔つきは、いつもの透子と似て見えた。

「愛してるよ、透子」
 彼女を見つめて和尚は言った。

 神とは人に呪われた存在。
 人の祈りにより、縛られる―

「お前も俺を― 愛してくれるはずだ」

 水で満たされた空間の中で、彼女は唇を引き結び、こちらを見ない。

 その呪いに絡め取られまいとするように。

「例え、これがただの呪いに過ぎないとしても、俺は― お前を縛りたい」

 透子、敢えて繰り返し、そう呼んだ。
 この女を神凪透子として、此処に留めるために。

 俺は― この天女に呪をうち、逃がさない!

 そのとき、背後から聞き慣れた声がした。

「ほんとにいつの世でも、しぶとい男だな、お前は」

 振り向くと、大陸風の衣装を纏った美しい女が立っていた。

「薫子か―」

 えっ、ババア!?

 どうやらそれは、薫子の前世の姿のようだった。
 透子は若い薫子を指差し言った。

「この女が昔、大陸からあれを連れてきたのだ」
「あれ?」

「あの龍神だ。この八坂のパワーを私では抑えられないと言って。

 あの顔を見ろと言ったろう? 日本の龍神は神と人とを結ぶ気のようなもの。

 あんな角だの牙だの持った獰猛な顔はしていない。

 最初は大変な暴れ龍でな。鬱陶しかったから、腹を割いたら、剣が出てきて―」