冷たい舌

 女は和尚の腕に抱きかかえられている己れの亡骸を見つめていた。

 その目は遠い過去に懸命に生きた、一人の女を慈しんで見ているかのように見えた。

 その横顔を見つめ、和尚は問いかける。

 本当にあの透子はただの幻だったのか?

 お前の心の中に、もう俺は居ないのか?

 その心の声が聞こえたように、ふいに自分を向いた女の目。

 人では有り得ない、人には見えない場所を見つめている目だった。

 怯みそうになるが、その光が人間神凪透子の中にもあったことを思い出し、気を奮い立たせる。

 この女も透子も同じもののはずだ。

 女は言った。

「お前を愛していたよ。だが、今となっては、なんだか遠い感情なんだ―」

 自分こそがその感情を捜すかのように川面を見上げる。

 そこには、揺れながら降り注ぐ金色の光があった。

「私はすべてのものを愛するように生まれてきた存在。
 もう、お前ひとりを愛することはできない」

 そう託宣のように言い切る。

「透子」
「……私はもう透子ではない」