冷たい舌

 

 
 深い淵の底に、ほとんど水の流れのないところがあった。

 白い祠が岩に寄りかかるように鎮座している。
 もう一つの龍神の祠だ。

 だが、その中には何もない。

 かつてそこに本物の龍神が居た。だから、此処には偶像など必要なかったのだ。

 和尚は、その前に膝をついた。

 そっと屈み込んで、そこに倒れているものに手を伸ばす。

 きっちりと閉じられた瞼。

 血の気を失った透子の顔は、なんだか満足げに見えて、今にも笑い出しそうだった。

 馬鹿が……何がそんなに嬉しいんだよ。

 和尚も釣られて笑い、横たわる透子の細い指に、自分のそれ搦める。

 そっとその頬に己れの頬を寄せた。
 冷たい水と変わらぬ肌の感触。

 透子はもう居ないんだ。

 身に染みてそう思う―

 俺は無意識のうちに、お前と同じものになりかったんだな。

 だけど、お前という犠牲なしに、俺は神には成り得なかった。

「意味ねえだろ。誰が考えたシナリオだよ、これ……」