冷たい舌

「春日。透子はもういないんだよ。『神凪透子』はもう何処にもいないんだ。

 そんな奇麗ごとになんの意味がある?」

 その目は、春日を映してはいたが、映してはいなかった。

 目の前にある情景など、鏡の向こうのことのように遠い。

「和尚」
 いつの間にか加奈子の後ろに居た忠尚が呼びかける。

「お前まで、その女を庇うのか?」
 そうじゃないよ、と忠尚は首を振る。

 そして、加奈子、と優しくその名を呼んだ。
 信じられないその響きに加奈子はおそるおそる振り返る。

「たっ……忠尚さんっ!」

「たっ……忠尚さんっ!」
「忠尚くんっ!」

 忠尚は後ろから加奈子の首に手を回していた。
 その手に握られているのは、八坂の剣。

「一緒に逝こう、加奈子。
 俺が間違ってた。

 透子に拒絶されるのが怖くて。あいつに拒まれたら、生きていけないと思って、他の女で誤魔化して。

 こんなに追い詰められるまで、何も言えなくて。
 結局、透子を死に追いやった。

 ……わかってるよ、加奈子。お前が悪いんじゃない。

 なにもかも俺のせいだ。

 だから― 一緒に逝こう」