冷たい舌

「馬鹿だよ……。お前が居なくなる方が、よっぽど辛いだろうが」

「そうですね。馬鹿なんですよ。女って―」

 ようやく振り返ると、春日は透子の血の溶け出した水が流れていくのを、ただ見ていた。

「さんざん振り回しておいて、ふっと消えて。
 それも、愛しているからそうしたなんて」

 自嘲気味な声だった。

「賢そうなくせに、馬鹿なんですよ……。
 でも、僕もやっぱり馬鹿だから。そんな舞が愛しくてたまらなかった」

 透子の最期に、春日は恋人との別れを重ねているようだった。

「長い間、僕には舞しか居なかった。両親の愛さえも失って。

 だけど……、僕はそれでよかった。それだけで、よかったのに」

 俺も同じだ。
 忠尚と違って、多くを望まない子供だと言われていた。

 だけど、そうじゃなかった。俺はお前さえ居れば、それでよかったんだ。

 女一人が生きがいだなんて、女々しいと人に笑われても。

 それで……俺はよかったのに。

 よかったのにな、透子……。