冷たい舌

「あと少しでいいから― いつもそればかり思ってた」
「透子……」

 ふと、瀧の音が聞こえてきた。
 林の陰から姿を現した男が、自分を見て、慌てふためいていた。

 だが、他の男と違い、彼は真っ直ぐ自分を見つめ返した。

 面白い男だと思った。
 透子の中に、当然のようにその記憶が蘇っていた。

「私― なんでだろ。貴方が私を見るような眼で、貴方を見てみたいと思ったの」

 だから、人になりたいと思った。
 人を愛せる、人になりたいと願った―

 例え神の力を失い、龍神如きに縛られる身になろうとも。

 男は言った。
 お前は天女ではないのかと。

 天女? そうだろうか。
 私はなんなのだろうか。

 私にもわからない。
 気がついたら、私は此処に居た。

 気がついたら、人とは違うものとして、此処に存在していた。