冷たい舌

 
 
「透子っ! 透子!」
 赤い水を掻き分け、和尚がやってくる音がする。

 遠ざかりかけた意識が、ふっと現実に返った。

 自分の腹から血が流れ落ちている。熱いな、と思った。

 でも思ったほど、怖くない。
 何故だろう。

 もう意識が半分離れはじめているからか。

 自分の血が、剣から滴る龍神の血と混ざり合いながら、淵に落ちていくのをじっと見ていた。

「透子っ!」
 そんな声とともに駆け寄ってきた顔に、何かが重なる。

 口を開きかけて、痛みにしゃがみ込んだ。

 水に傷口が浸かると、より一層出血が激しくなる。

 だけど、これでいいのだ。
 これでなければならないのだ。

 この私の、この生贄の血で、紅い邪気に染まりかけた淵を染め替える―

「透子っ、透子っ!」

 和尚の蜘蛛のように細い指先を背中に感じながら、ああ……懐かしい、と思っていた。

「可哀想な、私の龍(ドラゴン)―」
 透子は最期の力を振り絞り、その頬に触れる。

「お前― 知ってたのか」

 蒼褪めた和尚に、……舐めないでよね、と透子は小さく笑って見せる。