冷たい舌

 抜いた途端、ぼたぼたと赤いものが落ちて、透子は思わず、手を放す。

「あ……」
 淵に落ちたそれは、どんどんと血の染みを描いていく。

 淵がさっきとは違う朱色に染まっていった。

 そんなっ。十年も経ってるのに、まだ血が固まってないなんて!

 だが、儀式には、これが必要だ。

 透子は震える手で、それを拾い上げた。

 まるで違う空間から湧き出るようにいつまでも滴り落ちる血が、小さな八坂の剣を赤く濡らし続ける。

 二人の罪の生々しさそのままに―

『透子っ!』

 あのとき、気配を察したかのように現れた和尚が、龍の喉の下、逆さに生えている鱗に、月の光に白銀に輝く懐剣を突き立てた。

 『逆鱗』と呼ばれる龍の急所だ。

 ギアアアアアアッ。

 溢れる血が、透子の視界を真っ赤に染めた。

 あのときの和尚の姿を思い出し、透子の心は一瞬凪いだ。

 夜風が長い黒髪をしどけなくかきあげていく。

 今の透子には、加奈子との乱闘は見えていなかった。

 紅い月の光と、立ち上る紅い霧とで淵は真っ赤に染まっている。

 美しいと思った。