冷たい舌

『一番星だよ、和尚―』
 そう呼びかけたかった。

 あの背の熱を、何処までも、持っていけるはずのこの魂に焼き付けて―

 ほとりのぎりぎりまでいくと、透子は草履と足袋を脱いだ。

 生暖かい夜気を吸い込む。

 そっと冷たい夜の淵に足を浸すと、ゆっくりと中央へと足を進める。

 紅い月が淵を照らしていた。

 不吉な予知として、ずっと自分を苦しめ続けて来た紅い月。

 此処で、この瞬間、命を絶つのだと、何度もその映像を見せられた。

 だけど……何故だろう。

 怖かったはずのその月が、今は懐かしく感じられる。

 最期の抵抗をしようとする紅い淵の波動を足許から感じる。

 透子は天に瞳を閉じた顔を向け、大きく息を吸った。

 腰まで水に浸かっているせいで、下からじわりと染みるように冷えてくる。

 目を開けると胸許から八坂の剣を取り出した。

 くるくると紐をほどき、長い間、封じられていたそれを外気にさらす。

 見事な龍の細工の鞘に収まった剣。

 透子は唾を飲み込み、一気に鞘から引き抜いた。

「きゃっ」