冷たい舌

 そんなはずはない。

 透子だとて、この身体は、不出来な人間である大河と潤子から受け継いだものだ。

 しかし、彼女が人と違って見えるのは、生まれのせいではないこと、今の加奈子にはわからなかった。

「死んじゃってよ、早く死になさいよ!
 忠尚さんと、私の前から消えてっ!」

 加奈子はその両手を振り上げた。

「透子っ!」

 和尚が透子を引き倒す。

 加奈子の放った紅黒い邪念が白い和尚の袖に遮られ、林の方に飛んだ。

 和尚に突き飛ばされた透子は、そのままの姿勢で、あ……と空を見上げた。

「なにをしてる!? 透子、早く逃げろっ」

 夏だというのに、邪霊の降り撒く邪気のせいか、微かに残っていた陽の光も欠片もなく消え失せていた。

 代わりに、今、

 紅い……ああ、夢の通りだ。

 紅い月が、山の端にその大きな姿を現していた。

 加奈子の放つ邪念に反応した邪霊が立ち昇らせる紅い霧が天まで届き、月の色まで染め変えたようだった。

 なんて……不吉なまでに奇麗なんだろう。