冷たい舌

「透子は何もしていない。俺が勝手にこいつを想っているだけだ。

 お前が俺を想うのが自由なように、俺が透子を想うのも自由なはずだ」

 きっぱりと忠尚は言い切った。

 この闇の中で、忠尚の告白は光を放つほど、鮮やかだった。

 さすがの透子も胸を打たれる。

 だが、もちろん、その言葉は更に加奈子の怒りを煽った。

 透子を憎々しげに見上げるその眼は鋭さを増していて、思わず、透子は和尚の陰に隠れた。

「おい。こういうときに、俺を盾に使うな」
「だって、怖いんだもん」

「お前がはっきりしねえから、忠尚も想い切れないんだろうが。

 それがこういう悪循環を生んでるってわかんねえのか?」

「そんなことっ! 今言ったってしょうがないじゃないっ」

 そんな言い合いをしている二人の耳に、ざらついた声が割り込んできた。

「その女が生きてるから悪いのよ。
 龍神がこんな女、作るから悪いのよ」

 加奈子がふらりと立ち上がる。

「あんたずるいわ。だって。その奇麗な顔も身体も心も、人間のものじゃないじゃないっ!」