冷たい舌

 まさか体当たりで来るとは思っていなかった加奈子は、ふいをつかれて引っ繰り返る。

 透子はすかさず、逃がさないよう馬乗りになった。

 膝で加奈子の手を押さえ、懐から抜いた白い布に包まれた懐剣を取り出す。

 その形状に加奈子はそれが何かを察したようで、ひっ、と潰れた蛙のような声を上げた。

「そっ、そんなもので私を刺したら、あんた殺人犯よ」

「だったら、なに―?」

 月光の下、透子は酷薄な笑みを見せる。

「私はもうすぐ死ぬの。後で人がなんて罵ろうと関係ないわ」

 その、ぞっとするような赤い口許にか、加奈子は顔を引きつらせる。

 加奈子さん、と呼びかけた。

 押し倒されている加奈子の手のすぐ側で、沼のように濁った淵が、こぽり、と音を立てる。

 ざわりと、押さえていた加奈子の皮膚が、緊張のあまりか硬くなるのを感じた。

 透子は半眼になっていた目を、ゆっくりと開く。

 何処を見ているのかわからない瞳で微笑み、言った。

「加奈子さん。龍神は―


     此処に居る」