冷たい舌

 透子が何を言っているのか掴めずに、天満は目をしばたく。

「子供のとき、お祖父ちゃんと話してるの漏れ聞いて。

 そのときはよく意味がわからなかったんだけど。でも、今思えば、確かにそう言ってた」

 天満は衝撃を受けたように黙り込む。

「だから……もう誰を恨むのも止めて。
 いつもの陽気な頼れる叔父さんに戻ってよ」

 暫くして、天満は、透子ちゃん、ごめん……と言った。

 俯き項垂れるその姿に、透子は妙な親近感を覚えた。

 頼れる叔父だった天満より、今の天満の方が人間らしさがあっていいような気さえしていた。

 透子は悟った瞳で彼を見た。

 そうだ。天満さんも、苦しんで苦しんで、苦しみ抜いてきた人間の一人だ。

 もう― 何もかもが、今なら許せる気がした。

 透子の頬に偽りのない笑みが浮かぶ。

「さようなら。ありがとう、天満さん」

 天満が顔を上げる前に、その脇を擦り抜ける。

 黒い風に揺られた、たわわな緑の枝の下で、彼が振り返るのを感じながら。