冷たい舌

「……入っておいでよ」

 やさしい声で透子が言うのが気に入らなかった。

 そいつは、卑怯な手段でお前を手に入れようとした男だぞ。

 もう弟だとも思いたくなくて、目を逸らす。

 恥知らずにも忠尚は、おずおずと入口に回って入ってきた。

 顔も合わさない自分を透子が肘でつつく。

 それにカッとなって叫んだ。

「なんで、お前が仲裁に入るんだよ! お前、こいつのしたこと許すのかっ」

 その声に慌てた透子が後ろから飛びつくようにして、口を塞いだ。

 公人と春日が自分を見ていた。

 さすがに此処ではまずいと思い、小声で、外に出ろ、と透子に促す。

「え? どうして?」

「此処じゃまずいだろうから、外に出ろっつってんだよっ」

 だが、既にそれは小声ではなくなっていた。

「和尚くん、どうかしたんですか?」

 そう問いながらも、鋭い春日は、何があったのか、ある程度、察しているようだった。

 和尚はフォローを諦めて、正面から忠尚を睨む。

「お前、よく此処に顔出せたな」

 神妙な顔をしていた忠尚が、一転むっとした顔で睨み返してくる。