冷たい舌

 和尚なら耐えられたのだろうが。

 誕生するとき課せられた、前世の記憶に対する強力な封印。

 忠尚の力では、瞬間的にそれを破れても、持続させることは難しかった。

 彼の中では、透子は再び、ただの幼なじみの神凪透子に戻っていた。

 この違いが、透子から見たときの、和尚との決定的な違いとなってしまうのだろう。

「素っ気ないですね、忠尚さん」

 聞き覚えのある声に振り向くと、背にしていた大樹の側に、春日が立っていた。

 仕事を抜けてきたのか、相変わらず、仕立てのいいスーツを着ている。

「なんだ、お前か」
 そう呟きはしたが、加奈子よりはずっとマシだった。

「これって龍神の舞ですよね」

「そうだよ。
 和尚が龍神、透子が水で巫女―」

 忠尚は天を見上げた。

 やたら大きな満月が明るく光っている。

 それは、人の手で作り上げたチャチな照明など不要なほどに、天上から舞台を照らしていた。

「透子さんが一人でやってたときは、どうしてたんです?」

「居もしない龍神が居るかのように舞ってたんだよ。
 その方が本物っぽくて俺は好きだったけどね」

 半分はやっかみだが、半分は本当だった。

 透子ひとりで舞っていても、いつも側に、何かこの世ならぬものがいる気配がした。

 やはり、透子だと感心したものだ。

 だが、それは今も―
 今も、感じる。