冷たい舌

 なんだ、今のは―

 ぞくりと寒気がした。

 あれは―

 なんで今、俺にこんなものが見える?

 とてつもなく、厭な予感がした。

『お前、あの男より早く私と出逢ってみろ』

 早く? 早くは出逢えなかったよ。

 俺たちは一緒に産まれてしまった。

と、自分の中の、自分でも知らない己れが勝手に返事をする。

『早かったからとか、遅かったからとか、お前にとっては、それだけのことなのか?』

 彼女にそう問うたのは、自分だったのか、和尚だったのか。

 仕方ないだろう、と彼女は言った。

『私には、お前たちと同じような、人を想う概念はない』

 それは、まさしく人を喰ったような口調だった。

 ああ、でも、仕方がない。あれは人ではなかったのだから。