冷たい舌

 やがて、腕に、ぽつりと何かが落ちた。

 和尚はそれには気づかぬふりをして、空を見上げた。

「透子、見ろよ。月が奇麗だ」

 その言葉に、素直に透子の小さな頭が持ち上がる。

 やわらかな細い髪が和尚の顔にかかった。

 澄んだ蒼白い月は、異様なほど大きかった。

 月を見たまま、透子は言う。

「……忠尚ね、封印が弾き飛ばす前に、自分から手を放したわ」

「どんな魔法を使ったんだ?」

 囁くように問うと、
「思ったままを言っただけ― 泣かないで。大好きよ、『忠尚』って」
と目許だけで透子は微笑む。

 小憎らしいことを。

 だが、おそらくそれは真実なのだろう。

 自分を想っているのとはまた違う気持ちで、透子は忠尚を想っている。

 恋愛感情ではないとわかっていて、それが、ときどき辛かった。

 忠尚も自分も、透子との間にある距離は大差ないような気がして。

 そう思ったとき、黒い林を見ていた透子の目が伏せられた。

 何かを覚悟するように毅然としていた口許が崩れる。

 透子は顔を覆った。