冷たい舌

 
 
 林を抜けると、目に飛び込んできたのは、どんよりと澱んだ淵に清廉な輝きを放つ白い裸体。

 美しいその脚の側を流れる水も、月光を浴びて輝いている。

 気配に気づき、透子が振り向いた。

 和尚、と小さくその口が動く。

 そんなあられもない姿を見られても、透子は、いつものように恥ずかしがったりはしなかった。

 なんだかそんなものを突き抜けた遠い世界に彼女は居る―

 そんな気がして、和尚はふいに怖くなった。

 透子の魂はもう自分など手の届かないところに行ってしまったのではないか。

 生まれて初めて透子が八坂祭りで舞うために、衣装をまとったときも、こんな気持ちになった。

 彼女は本当は、自分なんかには手の届かない存在。

 それを見せつけられた気がして―

 だが、幾度も捕らわれかけたその想いを押し隠し、和尚は穏やかに彼女に訊いた。

「なにしてるんだ?」

 透子は自分と同じように、微かな笑みを口もとに覗かせ、禊、と言った。

「こうしてたら、きれいになれないかなあ、と思って」

 そう言って、透子は淵の水をすくいあげて、投げた。

 それは月光にきらめきながら透子の上に落ちていく。

 だが、そんな飾りなどなくとも、透子自身の白い肌の方が余程、輝いて見えていた。