冷たい舌

 


 夜の青龍神社は祭りの後の、不気味な静けさに包まれていた。

 こうして走っていると、あのときを思い出す。

 透子が淵に向かったのに気づき、彼女を追ったあの夜を―

 二度と……あんな思いをするのは厭だ。

 お前を誰にも渡さないと誓ったのに。
 お前を産んだ龍神にさえ、渡さないと誓ったのに。

 真っ暗な神社が見えた。

 母屋にも明かりがないが、何故か透子の部屋の窓だけ開いて、薄いカーテンが風に揺れていた。

「透子っ!」

 窓から部屋に飛び込む。
 後先などは考えていなかった。

 ちょうど窓の下は透子のベットで、和尚はスプリングの効いたその上に落ちる。

 息をついて部屋を見渡したが、そこには誰もいない。

「透子っ!」

 もう一度、叫んだとき、いきなりドアが開いた。

 はっ、と身構え、振り返ると、龍也が立っていた。
 パジャマ姿で眠い目を擦っている。

「和尚。夜這いなら、もうちょっと静かにやってくれ」