「長いんだよ、お前。風呂じゃないんだから」
装束の上を滑る髪から滴る水を、和尚の方が寒そうに見て言った。
「だって奇麗だったんだもん」
「なにが」
「夜の淵が。っていうか、あの月と林と水の感じがさ」
「そう言いながら、あんな九字の変形みたいなおかしな呪法を―」
「まるで、見てたように詳しいわね」
和尚は、うっと詰まった。
冷ややかに透子は言う。
「……まあ、そんな恰好して、覗きもないでしょうけどね」
彼はまだ、神道の衣をつけたままだった。
林の中の闇夜に、白いその衣が、ぼんやりと浮かび上がって見える。
透子は、つい微笑んだ。
「それ、よく似合うよ。神主になるために生まれてきたみたい」
「それ、親父に言ったら殺されるぞ」
かもね、と透子は笑う。
「それに、密教から神道に切り替えるの大変なんだぞ。
資格だけのことじゃなくて」
「和尚の場合は、形だけの坊主じゃなかったもんね。
でも、大丈夫だよ。和尚だもん」
和尚は眉根を寄せて言った。
「いつも思うんだが、お前のそのお気楽な発言の根拠はどの辺にあるんだ?」



