冷たい舌

 



 夜の淵は静まり返っていて、濃い群青の空には満天の星が浮いている。

 透子は後ろを振り返り言った。

「こっち見ないでよね」
「見るわけないだろ、莫迦」

 和尚は律儀に林の方を向いて座っている。

 ほとりにまで足を進めたとき、草むらに灰が落ちているのに気がついた。

 透子は腰を落として、そっとそれに手を伸ばした。

 これ……って。香?

 ちらりと透子は和尚を見た。

「早くしろよ、透子ー」
 水音がしないのに、焦れた和尚が声をあげる。

「はいはい」
 透子は仕方なく、紐を解いた。

 淵に来てみてよかった。

 和尚が清めていたようだが、それでもなお感じる。肌にまとわりつくこの邪念。

 今までとは明らかに違う。

 透子は、ぱさりと袴を落とした。