冷たい舌

 透子は龍也から手を放し、ぱしゃんっと水の表面を弾いてみる。

「あれえ?」

 透子は龍也を振り返り、
「今、ほんとにいたのよ。此処に、変なものがっ。
 いっぱいの髪の毛が私の手に絡みついて……」

 自分の腕を押さえてみる。

 月明かりに青白く輝いて見える肌には何もない。

 だが、その腕に絡みついていたたくさんの糸みたいな厭な感触は、はっきりと残っている。

 透子はあの底光りのする眼を思い出して、ぞっとしたが、龍也は呆れ顔で姉を見ていた。

「お前、ほんとに巫女なのかよ。祓えよ。それくらい」

「……私、幽霊は専門分野じゃないのよ。
 和尚、呼ばなくちゃ」

 頼りないことを呟く透子に、龍也は付け足した。

「和尚呼ぶんなら、取り合えず、服着たら?」

 ようやく自分のあられもない姿に気づいた透子は、恐ろしいはずの水に、ざぷんと浸かる。

「いっ、いやっ! なんでいるのよ、龍也! 出てってよっ」

 つい、助けてもらったことも忘れて、そこにあった桶を投げつけた。

「お前が呼んだんだろっ」

 頭を押さえて、透子の攻撃を避けた龍也の後ろに、公人が遅れて現れた。

「なにやっとるんじゃ、透子。

 龍也、禊の最中の透子に触れるなと言ったじゃろうが」

「俺のせいじゃねえっ!」