冷たい舌

 あんたの巫女でありながら、男を誘うあの女を殺して。

 あの女を殺して、忠尚さんを返して……!

 ぴしゃり、と足許で音がした。
 見ると、淵に映る月の姿が曇っていた。

 何処からともなく染み出した紅い霧が淵を覆おうとしている。

 だが、加奈子はそれを不思議には思わない。
 笑いながら、月を見上げる。

 月が満ちたら―

  きっと私のこの願いも叶う。

 加奈子は月に向かって大きく両手を広げた。

 無意識のうちに、それを自分の味方につけようとするように。

「お願いよ、龍神様。

 裏切り者の― あんたの巫女を殺してちょうだい」

 風に乗った薄い長い雲が、やがて月にかかるまで、加奈子はそこでそうしていた。