冷たい舌


 

 祭りの喧噪が消えた夜半過ぎ。

 加奈子は祠の前にしゃがみ、置いたばかりの野菊を見つめていた。

 こんなことしたって、何の意味もない、ただの気休めにすぎないってわかってる。

 だけど、やらずにはいられない。

 子供のころ、おばあちゃんが言っていた。

 願掛けをすれば、淵の龍神様はどんな望みも叶えてくれると。

 立ち上がった加奈子は、夜の淵に目をやった。

 月を映したその姿はとても奇麗に見えたが、加奈子にはその下にどろりとした冷たい水が流れているのが感じられた。

 まるであの女みたいだ―

 美しい姿をして、あの女には心がない。

 あれだけ、あの忠尚さんに想われながら、まるで関心がないなんて。

 加奈子はこのところ、忠尚が自分に対して冷たくなったのは、透子のせいだと気づいていた。

 急に和尚と結婚するなどと言い出したので、焦って自分の方を振り向かせようとしているのだろう。

 昼間、和尚に、忠尚と同じ顔で、透子と結婚すると言われたとき、腸が煮えくり返るかと思った。

 ―許さない……許せない。
 あの女だけはっ。

「お願いよ、龍神様。
 あの女を殺して」