冷たい舌

 何も言わない和尚を、透子が不思議そうに見ていた。

「和尚、どうしたの?」

 さっきの遣り取りなど忘れたかのように微笑む。

「いや……。急に出て行くから、どうかしたのかと思って」

 そのなにものにも替えがたい穏やかな笑顔に、これが曲者だとわかっていて、和尚はつい微笑み返してしまう。

 この空気を壊したくないが故に、いつも曖昧な追求しかできなくなるのだ。

 側に行くと、透子は木に縋ったまま和尚を見上げて言った。

「別に。ちょっと疲れただけ。龍也ひとりにしとくと、後で怖いわよ」

 透子のか細い手が和尚の伸び始めたばかりの後ろ髪に触れた。

「けっこう伸びたね」

 微笑む透子の緋袴に似た色の口もとに。その白くて長い指先が微かに首筋に触れたことに、和尚は、つい動揺した。

 だが、透子はそんなことには気づかぬように言う。

「ねえ、せっかくのお祭りなんだから、括ってみない?」

「え? まだ、そんなには……」

「いいから、座って」

 透子の手から逃げるように腰を引いたが、透子は彼を強引に木の根元に座らせると、紅白の飾りを外し、自分の髪をほどいた。

「おい、お前、爺に怒られるぞ」

「いいの。和尚の方が半端でうっとうしいわ」

 鼻唄など歌いながら、髪を結っている。