冷たい舌

 万感の想いを込めて見つめるその視線に気づいたように、透子が振り返る。

 そして、自分だけに向けてくれる奇跡のような笑みを見せた。

 和尚は子供のころ天満が話してくれた昔話を思い出していた。

 寺に安置されていた天女の像に想いを掛けた男の話を―

 どうか貴女に似た女をくださいと、男は日々、天女に願いをかける。

 ある夜、天女に似た女が現れ、男は想いを遂げた。

 目覚めた男は、天女の像を見て、夕べ、自分の相手をしてくれたのは、天女自身だったと気がついた。

『私は、貴女に似た女をと望んだだけなのに、どうして、貴女御自身を私にくださったのですか?』

 どうして、貴女を―

 あの話を思い出すたび、何故か和尚には透子が、その天女とだぶって見えた。

 本当に神凪透子なんて女はここに居るのか?

 これはすべて俺の願望が見せている幻なんじゃないのか?

 繰り返し、そんな恐怖に襲われる。