『透子っ!』

 あの日、龍の血に染まる淵のなかで、和尚が自分を呼んだあの瞬間が、自分の人生のなかで一番好きだ。

 例え、それがどんなに呪われた瞬間でも。

 そして―

 オレンジの空が一面に広がっていた。
 龍のように流れる淵。

 ああ……。

 淵の中に和尚が居た。

 長く伸びた髪を夕暮れの風に棚引かせている。
 透子は、そっと近づいた。

 わかってるよ、和尚。
 これは私が勝手に見続けていた、

  儚い未来―

 夢の中で、透子は初めて和尚の口づけを受けた。