冷たい舌

 

 
 夕暮れ前の淵に透子はひそんでいた。

 斉上と別れてから、すぐに此処に来たのだ。

 林の陰で、和尚が来るのを待とうと思っていた。

 これだけ早ければ、すれ違わないはず。でも、ちょっと疲れちゃったな。

 透子はそう思って、シルバーのブレスになっている腕時計を見た。

 あのあと頼んだケーキのせいでお腹がくちくなっていた透子は、つい欠伸をする。

 夜毎、訪れる悪夢のおかげで、常時、寝不足気味だった。

 夏とはいえ、涼しい淵のほとりには、心地好い風が吹いていて、眠気を誘う。

 ちょっとだけ、ちょっとだけね―

 自分にそう言い訳しながら、透子は後ろの楠に背を預けた。