冷たい舌

 透子も怒った和尚の怖さはよく知っているので、それぎりその件に関しては口を閉ざした。

 でも、よく、その後も和尚と友達やってるなあ、この人。

「忠尚が部活やってたせいもあって、よく和尚と二人で帰ってただろ。

 だから、やっぱり、そうなのかな、と思って……諦めた」

 諦めたって何を、と思ったのだが、珍しく斉上が近くの巨木を見たまま、固いものでも呑み込むように唾を呑んだのを見て、なんとなく訊けなかった。

「でも、やっぱり、決定的だったのは、あれかな。和尚、今、煙草吸わないだろ」

 透子は両手で頬杖をついて、溜息をつく。

「そういや、昔ちょっと吸ってましたね。
 あれ、斉上さんのせいですよね。

 ほんっと、和尚も忠尚も悪いことは全部、斉上さんに習ったんですよね」

 睨んでやると、斉上はまたも目を逸らしてしまった。

「まあ、勧められてやる方も悪い……いや、その。

 中高生って試してみたいんだよ、いろいろと。でも、和尚はすぐやめただろ。

 あれって、透子ちゃんのせいだよ」

「え?」

「せっかく一箱やったのに、なんでだって訊いたら『透子がその匂い厭』って言ったからって」

 そういや……そんなこと言ったような。

 目の前で吸ったことはなかったけど、服や髪に染みついたその匂いが厭だった。

 和尚が違う世界に行ってしまいそうで―

 ふいに春日の声が耳を過ぎった。

『貴女は、和尚くんにも一生神に仕えて生きて欲しいと思ってるんじゃないですか?』