冷たい舌

 



 和尚とはあれぎり、朝夕の参拝でも会わなくなった。

 このままなのかなー。

 でも、いっそこのままの方が気が楽なのかも……。

 そう嘯きながらも、そんなのは嘘だとわかっていた。

 ハンドルを握る手に力を込める。
 夏の光を浴びて、ハンドルの皮は熱くなっていた。

 和尚。いつもみたいに笑ってよ。
 いっぱい、いじめてくれてもいいから。

 もう一度でいい、貴方の声が聞きたい―

 だけど、自分が悪いとわかっている透子からは、何も言い出せないでいた。

 はあーっと溜息をついたとき、前にいたひとつ前の型の白いスープラが、ハザードをたいた。

 え? なに、避けるの? それとも、私何かした?

 心ここにあらずの状態で運転していた透子は、びくびくとスープラの様子を伺う。

 冷静に考えれば、少々のことをしようとも、天下のカウンタックに喧嘩を売ってくるやつはいないのだが。

 ちょうど赤になり、すうっとスープラは止まった。

 ハザードが消え、運転席の窓が開く。

 あれ?

 見知った顔が覗いて手を振った。

「なーんだ、斉上さん」

 いつもと変わらない軟派な笑顔を見て、急に日常が戻ってきた気がし、ほっとした。