冷たい舌

「……するだろうな。でももういい。

 もう……なんでもいいんだ」

 目を逸らすようにして唇を引き結ぶ忠尚の、その思い詰めたような瞳が、かつての自分を思わせて、天満は畳み掛けるように言った。

「忠尚。あれは相手が自分を愛してくれる魔法の薬なんかじゃない。

 気の利いた催淫剤みたいなものだ。お前、そんなもの使って、透子ちゃんを思い通りにしたいのか?

 お前にとって、透子ちゃんは、その程度のものなのか?」

 言い募りなから、その科白すべてが我が身に痛かった。

「まあ、待てよ。あの二人、どうせ偽装結婚なんだろう。

 心配しなくても、透子ちゃんが拒否し続ける限り、和尚は何もしないよ。あれはそういう男だから」

 その言葉が一番痛かったようで、忠尚は掃除の行き届いてない床を見ながら、吐き捨てるように言った。

「どうせ、俺は最低の男だよ」

 その言葉に、天満は寂しく呟いた。

「……心配するな、俺もだから」

 忠尚が振り返るのを感じながら、天満は蛍光灯の周りを飛ぶ小さな黒い虫を見ていた。