誰かが自分の名前を呼びながら、肩を揺すっていた。
薫子さんだろうか。
いや、あの人はこんな風に優しく自分に触れたりはしなかった。
透子ちゃんかな?
有りえない期待を抱いて薄目を開けた天満は、がっくりと項垂れる。
「なんだ、お前か」
色々と考え込んでいるうちに、作業台の上に突っ伏して寝てしまったらしい。
天満は丸まった背筋を伸ばすように、パイプ椅子の背にそり返った。
忠尚は相変わらずの洒落めかした格好で、向かいの台に手をつき、にやにや笑っている。
「年に一度の祭りの前だってのに、だれてるね、天満さん」
「僕に祭りは関係ないもの」
台の上に腰かけようとする忠尚の足をはたいた。
「珈琲淹れてくれ。濃いめの奴」
忠尚は文句を言いながらも、奥の部屋に向かう。
それを見送ってから、ふと気づいて呼びかけた。
「お前、祭りの準備しなくていいのか?」
「和尚がやってるから、いいんだよ!」
怒ったような声が返ってくる。
今何を言っても、こっちが、とばっちりを食うだけだな。
そう思って天満は棚から埃をかぶった薄い缶を引きずり下ろし、巻き煙草を取り出した。



