冷たい舌

「つっ……」
「透子さんっ」

 透子は血の滴った指先を口許に持っていく。

「あ、危ないです。破片(かけら)でも入ったら……」

 言いかけて、透子が入口を睨みつけているのに気がついた。

 振り向くと、そこにはこの神聖な場に不似合いな墨染めの衣を着た男が立っていた。

 春日の視線に気づくと、彼は今まで、まがりなりにも見せていた愛想さえ失った瞳で一瞥し、ふいと回廊に出ていった。

 あーあ、と透子はわざと声をあげ、自分の方に注意を向けさせる。

「こりゃ、おじいちゃんに怒られるわ」

「ご、御神体ですもんね」

 透子の怪我に気を取られていて、そこまで気が回っていなかった。

 ああでも、それはいいんです、と透子は割れた鏡の破片を祭壇の側に起きながら言った。

「これ、祭りのたびに新しく造り返るから」

「御神体をですか!?」

 仮とは言え、そんなの聞いたこともない。

 足許に散らばる見事な龍の細工の彫られた銅鏡を見ながら透子は呟く。

「龍神だから。

 龍神様は、蛇の化身とも言われてるでしょう?

 一年ごとに脱皮なさるんです。
 そうして、新しい器に乗り換えられる」