冷たい舌

「だって、わかったところで、どうしようもないことじゃない」

 こういう潤子の潔いところは嫌いではないのだが―

 しかし、普通の家から嫁に来たとは言え、この村の出身のはずなのに、此処まで龍神を舐めくさっていていいものだろうか、といっそ感心しながら母を見る。

「そういえば、春日さん、ベンツでいらしたんですって?
 やっぱり、お金持ちなのねー」

「でも、あのベンツより、私のカウンタックの方が高いもん」

 その言葉に、大河が項垂れる。

「まったく、お前は。母さんが残した遺産をあんなものに使いおって」

 一昨年の秋、薫子の遺言で、彼女が生家から持ってきていた手付かずの持参金すべてが、透子一人に譲り渡されたのだ。

 透子を跡取りと見込んでの、一代飛ばした税金対策、ということに表向きはなっていたが、本当は違う。

「母さんは自分が願掛けしたせいで、お前が龍神の巫女になったことを悔いていたんだ。

 あの金は母さんのお前に対するせめてもの罪滅ぼしだったんだろうに」

「何も、お祖母ちゃんが悔いることなんかないじゃない。
 私はこれで満足してるんだから」

 口を開きかけた大河の言葉を塞ぐように透子は早口に言った。

「それに、カウンタックと龍也の車買った以外のお金は、お母さんたちにあげるって言ってるじゃない」

 透子は服装も生活も地味ではないが、特にお金に執着のある方ではない。

 あれば使うし、なければ使わない。
 それだけのことだ。

 それに― お金で手に入る一番欲しいものはもう手に入れた。