冷たい舌

「龍也なら居ないよ」

「いや、透子。
 そうじゃなくて―」

 弁解しようとする忠尚を無視して、透子は隅にあった小さな丸い椅子を引いてくる。

 鏡の前にそれを置いて座った。

 公人が頭を結うには、透子の背は高くなりすぎていた。

 鏡台の側に髪上具を一式置く。

「お祖父ちゃん、つけて」

 ほいほい、と公人は透子の後ろに回る。

 忠尚は居場所がないように、入口に立っていた。

 透子は鏡に映る彼に向かって言った。

「なによ? 入ったら?」

「いいのか?」

 絹に負けず劣らず、美しい透子の髪がその白い胸元を這っている。

 それを公人は一掴み持ち上げ、後ろに流した。

 柘植の櫛で丁寧に梳きなおす。

 まだ入口に立ったままの忠尚は、彼にしては珍しく、尻込みするようにして言った。

「でも、昔はほら。
 潔斎中は人に会ったら駄目とか色々あったじゃないか。

 今でも、そういうことするときは、その……いいのか?」

 ああ、と笑って言おうとした透子より先に、公人が言っていた。

「そんなもんは、初潮が来るまでの話じゃ」