冷たい舌

 



 夕暮れ、透子は神楽の衣装合わせのため、薫子の部屋に籠もっていた。

 此処は古い畳の匂いがする。

 薫子の嫁入り道具だった細長い一面鏡の前で、禊の後に羽織っていた白い着物を落とそうとした透子は、ふと気づいて振り返る。

 公人が着物を整える振りをしながら、そこに居た。

 やっぱり、まだ居やがった。このジジイ。

「……お祖父ちゃん、この辺は自分で出来るんだから、出ててくれない?」

「いや、すまんのう。じゃあ、支度が出来たら、呼んでくれ。

 髪を結うのは儂がやってやるでな」

 公人は急に老人のふりをして出ていく。

 ったくもう。

 着物の下着につけなおした透子は、衣桁に掛かった豪奢な装束に手を伸ばす。

 龍の透かしの入った絹に、赤い縁取り、金の飾り。

 また、龍神に奉納するための神楽を舞うのか。

 神楽は見物客のための目玉だ。

 あのあと、和尚は降ろされたが、まさか龍神の巫女である自分がやめるわけにはいかない。

 透子はこの十年、姿を見せぬ神のための神楽を一人、舞い続けてきた。