冷たい舌

 透子でさえ、感情の読み取れない瞳だった。

 ごめん……と呟き、透子は力なく立ち上がる。

「和尚、今、此処に」

 わかっている、と和尚は袖を翻して、淵のほとりに立つと、長い念珠をその腕に絡め直した。

 淵の異常に気づいて、わざわざ戻ってきたらしい。

「この間からずっと続いてる。真夜中に願掛けしてるらしい」

 いつも、お前が来る前に始末していた、と言われた。

「え。そんなの言ってくれれば、私だって、おじいちゃんだって」

「もうお前等の手を借りたくないんだ」

 手を合わせ、目を閉じた和尚の口から、迷いのない真言が溢れ出した。

 それに共鳴したかのように、淵の水が振動し始め、やがてそれは、辺りの空気をも揺るがし始める。

 淵の空気が少しずつ奇麗になっていくのを感じた。

 だが、透子は和尚の腕にしがみついて、その合掌を崩す。

「透子っ!」
 思いがけない行動に驚き、和尚が叫んだ。

「やめて、やめて。もうやめてっ!
 これ以上、無駄に力を放出して、貴方自身を痛めつけたりしないで!」

「なんのことを言ってるんだ」
「誤魔化さないでよっ!」