冷たい舌

 龍神を殺したあと、透子と和尚、そして、公人は、薫子の指示のもと、淵を清めてきた。

 だが、あれから十年、八坂の夜は、年々暗くなる。

 薫子が死んでからは加速度的にひどくなっている気がする。

 八坂の淵は力の集まる臍のようなもの。

 いずれ自分たちでは制御できなくなってしまう。

 もう私には、何も救うことはできないの?何も― 誰も。

 透子は泣きたい思いで、その崩れ落ちた花を握り締める。

 そのとき、ずきんっ、と心の奥深くが痛んだ。

 いけないっ。
 私、この花の願掛けの主と共鳴してるっ!

 急いで手を放そうとしたが、崩れた花は黒い臭気を放ち、透子の手の上で踊るように揺れていた。

 まるで透子のすべてを吸い取ろうとするかのような、その悪意。

 透子はたまらず手を振ったが、吸いついて離れない。

「いやっ。
 和尚っ!」

 ついそう叫んでしまったとき、ぱんっ、とその手を見慣れた木の珠が打った。

 力を失った花の欠片は、ぱらぱらと透子の手から落ちていく。

 黒衣を纏い、念珠を手にした和尚が透子を見下ろしていた。

「都合のいいときだけ、俺に頼るな」