冷たい舌

 透子は畳の上についた手を握り締める。
 和尚が何かを押し殺すように言った。

「わかった。好きにしろ。
 それが、お前の意思なんだろう。

 この俺よりも、この八坂を、俺の殺した龍神(かみ)を選ぶと言うんだな」

 これが彼の決別の言葉なのかもしれないと思いながら、透子は頷く。

 和尚の視線が自分から外れたのを感じた。

 積年の想いを堪えるように、強く緋袴を握りしめる。

 赤い袴は既婚者の印。

 永遠の― 神の花嫁。

 それは、いつもいつも、透子の足をからめとる。

 私にっ、誰のものにもなるなと言うのなら、どうして私を女に産んだんですか! 龍神様っ!

 叫び出しそうになった透子は、堪え切れずに部屋を飛び出した。

 裸足のまま縁側から駆け下りる。

 反射的に、和尚がその名を呼んだが、それを振り切るように境内から飛び出した。

 何処でもいい。

 和尚の居ないところに行きたい……!

 淵に向かって走っていた透子は、足を滑らせて転んだ。

 息をついて見上げた空に浮かぶ白い真昼の月。