透子は今、自分に触れているのが、十年前の和尚ではなく、今の和尚であることに気がついた。
天を引き裂く龍神の咆哮が聞こえた気がして、彼を突き飛ばす。
「……透子」
ぐらぐらする封印を押さえるようにして、箪笥に背をついた。
和尚を想う心を、あのとき、薫子に封じ込めてもらった。
いつか、望みを果たすのに、それが何よりも邪魔になるとわかっていたから。
だが―
此処数年、和尚に勘付かれるほど、封印を押さえる回数が増えているのに気づいていた。
無理やり封じ込めようとしても、封印さえ届かない心の奥で、もう一人の自分が叫び続けている。
和尚……
和尚、和尚、和尚っ!
透子の目に涙が滲んだ。
和尚の手が強く手首を掴む。
「もういいだろう? 透子。お前はほんとは覚えているはずだ。
お前の龍神はもう居ない。
俺が殺したんだ―」



