冷たい舌

「だっ、駄目っ」

 透子の細い手がそれを押さえようとしたが、鍵がかかっているわけでもない引き出しは、するりと開いてしまう。

 積み重ねられた袱紗やハンカチの上に置かれたままだったそれを、和尚はすぐに見咎める。

「……八坂の剣(つるぎ)?」

 彼はそう言ったまま、それに触れようとはしなかった。

「そうか……。
 此処にあったのか」

「あの後、天満さんが拾ってきて、お祖母ちゃんが清めて此処に」
と気まずげに透子は言う。

 今では剣と呼ぶのもおかしいような、その懐剣を見つめていた和尚が、ふいに言った。

「もう―
 いいんじゃないのか、透子」

「え?」

「お前はよくやった。
 もう、後のことは俺に任せろ」

 見上げた和尚の顔に、障子を通った柔らかな光がかかっている。

 輪郭のぼやけたその顔が、遠いあの日を思い出させた。

 鮮やかなグラデーションの空。

 薄紫から桃色に変わる不思議な夕暮れ。

 その色を映した淵は、今まで見たこともない色をしていて、さながら、現実に存在する空間ではないかのようだった。

 だからだろうか―

 夢なら許されるとでも思ったのだろうか。