冷たい舌

『ど、どうかされたんですか? 透子さん』

 さんざん待たされたと思ったら、急に怒鳴り出したからだろう。

 春日の脅えたような声が聞こえた。

「あ、いえ。すみません。お待たせして。
 ちょっと今、弟が反抗期で」

 反抗期って年か、と思いながら言う透子に、春日は歯切れの悪い口調で訊いてきた。

『透子さん、あの……今、龍也くんに聞いたんですけど』

「はい?」

『和尚くんと結婚するって本当ですか?』

 振り返ったときには、龍也はもう居なかった。

 まったく、反対なくせに、しゃべるのだけは、ぺらぺらしゃべるんだから。

『自分で嗾けておいて、なんですけど。
 やっぱり、ちょっと残念ですね。

 僕と見合いなんかしたから、和尚くんも焦ったんでしょう。

 でもまあ、よかった……かな?』
と自分で自分に確かめるように言いながら、力なく笑う春日に、物の弾みです、とも言えずに透子は曖昧に濁した。

 膝をつき、欄干から身を乗り出すようにして寄りかかると、月を見上げる。

 月はまだ、透子を護るように照らしていた。