冷たい舌

 


 
 夜の龍王山は、昼間の熱気が嘘のように引けている。

 拝殿の回廊に座っていた透子は、欄干に手をやり空を見上げた。

 煌々と真白い月が、鳥居の上に浮かんでいる。

 毎日こうして見ていると、月にかかる影が少しずつ消えていく様がよくわかった。

 夢の中の満月を思い出し、冷えた欄干に額をぶつけるように寄せる。

 ふいに何かが袴を引っ張った。

 振り向くと、龍也が立っていて、透子はその足許を指さし言った。

「ちょっとあんた、踏んでるわよ」

 木の床の上に広がる紅い袴の裾を龍也は踏んでいた。

「おや、お姉様、気づきませんで。
 何の荷物が置いてあるのかと思いましたよ」

 そう言いながら、ぐりぐりと裾を踏みつける。透子はその脚をはたいた。

「やめなさいよ。
 罰当たりな奴ね」

 固い臑に当たって、痛みに手を振る。

 ばか、と言う龍也の口の動きが目の端に見えた。

「そっ、それから、そんな真っ黒な上下でこういうとこ、うろうろするのやめてよね。

 氏子さんたちが見たら、びっくりするでしょ?」

「真っ黒な法衣で、うろつく和尚たちよりはマシだろ。

 だいたい、罰当たりって何だよ。
 何様だよ、お前」