冷たい舌

 



「ただいまー」

 声をそろえて境内に入る。
 さすがにもう、手は離していた。

 義隆と何か話しながら、宿坊から出てきた和尚は、夕闇に溶け込みそうな墨染めの衣を着ていた。

 透子はつい、目を細めてそれを見ていた。

 彼は透子に連れられた忠尚に目をやり、なんだ、帰ってきたのかと眉根を寄せる。

「ふん。
 透子が帰ってこいっていうから、帰ってきてやっただけだ」

 和尚はわざと、別に帰ってこなくてよかったのに、という顔をする。

 義隆が何か文句を言う前に、忠尚が言った。

「和尚。
 透子は、お前となんか結婚しないってよ」

 ソッポ向いていた和尚が振り返る。

「そう言ったもんなー、透子」

 じろ、と和尚は透子を睨んだ。

 透子は俯きがちに指を弄んで、苦笑いをする。

 和尚は珍しく何も言い返さずに、そのまま本堂に入って行ってしまった。

 義隆は、おやおや、という顔で、二人を見比べる。

 忠尚は和尚の消えた本堂に向かって叫んだ。

「やーい、ざまあみろ。
 屈折、二十五年、やっと和尚に勝ったって感じだなっ」

 束の間の、ほんとに束の間の勝利に酔いしれる忠尚をよそに、透子の目は本堂の暗がりに消えた和尚の姿を追っていた。