冷たい舌

 十年前、突然、淵は輝きを失った。

 人々の信仰が薄まったせいで、かろうじて生きながらえていた龍神がついにその力を失ったのだと、薫子はみなに説明した。

 龍の気がこの八坂の持つ霊的な力を制御できなくなったのだと。

 八坂の臍である淵はあれから、常に澱みとともに流れ続けている。

 透子は和尚の側に膝をつき、水に手をつけた。表面に感じた温かさを突き抜けると、刺すような冷たさが指先を撫でていく。

 透子は顔をしかめた。

 口許で小さく呟き、水の中で十字にも似たものを切る。

 すうっと水の汚れが緩んだ。だが、所詮、それは、墨の流された水が、少し薄まったようなものだ。

 指先を川の上で払うと、水滴が長い透子の指先から散って、きらめきながら川面に落ちていった。

「でも、この川はまだマシね。もう何処にも自然の気なんか余っていない」

 透子はお尻を草原につけたまま、空を見上げる。濃い緑に覆われた龍王山の頂上が見えた。

 上を見過ぎて引っくり返りかけた透子は、頭が、ごつっ、と何かに当たったのを感じて振り仰ぐ。

 和尚がいつの間にか真後ろに立っていた。

 一瞬、離れかけ、思いなおして、そのまま和尚の膝に頭を預ける。

「あー、疲れた」

「……好きで戻ったんだろうが」

 とつとつとしたその語り口調に、厭味が含まれているのかどうかは、判断しがたい。