冷たい舌

「なに馬鹿言ってんのよ!」

 透子は襖に手を掛けると、遠慮会釈なく、隠れている忠尚を引きずり出す。

「いってーっ。
 放せよっ」

 そう言いながらも、忠尚は決して乱暴には振りほどかない。

「いいから帰るの!
 明日から山車とかの点検やるんだからね。

 氏子さんたちにだけ任せるわけにはいかないでしょ。男手がいるのよ」

 いやだーっ、と忠尚は襖に張りついている。

 これがあの、他の女の前では、都会派のいい男を気取っている人間と同一人物とはとても思えない。

「帰んねえぞ、俺は!
 お前と和尚でやれよ。

 なんで俺がお前らの神社と寺のために働かなきゃいけないんだよっ」

「あれ? 透子ちゃんと結婚するんなら、和尚は養子に入るんでしょ」

 え? と二人が同時に振り向いた。

「だって、龍神の巫女様が青龍神社から出るわけにはいかないじゃない。
 公人さんはそのつもりなんじゃないの?」

「た、確かにそうは言ってたけど……」

「てことは、やっぱマジなのか、あれ。

 ジジイ~ッ!

 あーっ!
 ますます帰る気なくした!
 もういいよ、俺っ。ここんちの子になるっ」

「毎晩、違う女を引っ張り込むような息子は僕はいらないよ。
 兄貴が怒鳴りこんできたら煩いから、早く帰ってよ」

「ほら、天満さんだってそう言ってるじゃない。行くわよっ!」