冷たい舌

「それ以外に何があるんですか」
 切って捨てるようにも聞こえる言葉だった。

 僕が和尚だったら、ショックで気絶するなと思った。

「……天満さんには感謝してますけどね」

 そう付け加えた透子に、
「いいよ。そんなの」
と答える。

 ほんとうに。僕はただ、薫子さんの指示だからしただけだ。

 そして、すべてを押さえられるのは、今は自分だけだと見せつけたかっただけだ。

 公人さんに―

「でもさ、透子ちゃん。
 封印、ずいぶん、ぐらついてるよ」

 ぱっ、と透子は額に両手をやった。

 悪戯を見つけられた子どものようなその仕種に、天満は笑った。

「来てごらん。
 手を貸してあげるから」

 まだ額の中央に手をやったまま、おずおずとカウンターに近づいてくる。

 微笑ましげに笑いながら、白い額に手をかざそうとしたとき、

「天満さんっ。
 俺さあっ……あっ、あれっ透子っ!?」

 いつの間に起きたのか、奥の襖を開けて、忠尚が顔を覗かせた。

 が、透子に気づいて、すぐにその身を翻す。

「あっ、忠尚っ!」

 透子は忠尚を追いかけて、カウンターの中に入ってくる。

「ちょっと! あんた帰りなさいよっ。
 今、忙しいのよ、みんな」

「そんなの俺の知ったことかっ!」

 襖の向こうから声だけがする。
 透子の姿を見たら、決心が揺らぐからなのか。