冷たい舌

 



 店の前で聞きなれない爆音がして、天満は薬を調合していた手を止めた。

 夕陽を浴びたガラスの向こうに、真っ赤な車高の低い車が見えた。

 からん、とドアが開くその瞬間を、天満は感慨をもって見つめる。

「天満さん、忠尚返して」

 彼(か)の人と似ても似つかぬおとなしげな風貌に、きらめくその瞳だけが、面影を残していた。

「返してって言われてもね。僕が囲ってるわけじゃないから。
 あいつ、寝言うるさいから連れて帰ってよ」
と親指で奥を示すと、

「まさか、今も寝てるんですか?」
と、呆れたように透子は言う。

 八坂に名高い、汚れなき龍神の巫女様―

『初めまして、透子ちゃん?』

 あの小さかった身体を抱き上げた日のことを天満は思い出していた。

 まだ若かった公人が、熊手を振りかざして追いかけてきた。

『こりゃっ、天満。
 手を放せっ。
 この悪魔っ!』

 天満はつい、苦笑しそうになるのを堪えた。