冷たい舌

 



 龍造寺の裏手を抜け、湿ったような林を過ぎると、急に視界が開ける。

 真昼の光を映した草原と幅広の川。

 川の湾曲した辺りは深いエメラルドグリーンに染まっている。

 青龍神社のご神体、龍神ヶ淵だ。

 穏やかな流れを見せる淵の上には対岸の木々の緑が覆い被さり揺れていた。

 淵のこちら側のほとりには古い小さな石の祠がある。

 その側で、墨染めの衣を着た男が、目を閉じ、真言を唱えていた。

 透子もまた目を閉じる。

 彼の声に鳴動するように、大気も水も震えているの感じた。

 真言の韻律に反応して、水の性質が変わるというのはよく知られていることだが、透子は自分の中の血もまた、彼によって、清浄なものに変えられていく気がしていた。

 水そのものが大日如来だという説もあるけれど。

 歩き出そうとしたとき、ふいに真言が止まった。

「―帰ったのか?」
「うん、今ね」

 和尚の足許で、淵は夏のはじめの光をいっぱいに浴びながら流れていた。

 だが、その涼やかな流れの下で、澱んだ気が渦を巻いているのが透子には見えた。